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生と死(手塚治虫:火の鳥2部未来編)



ぼくは医学生時代、何度も人の死に立ち会った。映画「赤ひげ」ではないが、死とのたたかいは、なんと荘厳で神秘的なものだろう。死をむかえたとき、その肉体のどこで、どのような機序がなされ、息絶えたときに浮かぶ一種の法悦感は、なにを物語っているのだろうか?

死とはいったいなんだろう?

そして生命とは?

この単純でしかも重大な問題は、人類が有史以来とっくんで、いまだに解決されていないのだ。ある人は宗教的にそれを解釈し、あるいは唯物論的に割り切ろうとする。ある説によれば、霊魂は物質として存在し、肉体をはなれるときにはその重さだけ体重が減るという。複雑な蛋白質―コロイドとよばれる状態―には、疑似生命現象がみられ、逆にビールスの中には、生命があるのかどうかも疑わしいものがある。生命が物質なら、それらにも霊魂があるのだろうか?

人間は何万年も、あしたを生きるために今日を生きてきた。あしたへの不安は死への不安であり、夜の恐怖は死後の常闇の世界の恐怖とつながっていた。人間の歴史の、あらゆるときに、生きるための戦いがなされ、宗教や思想や文明のあらゆるものが、生きるためのエネルギーにむすびついて進歩した。

「火の鳥」は、生と死の問題をテーマにしたドラマだ。古代から未来へ、えんえんとつづく「火の鳥」−永遠の生命―との戦いは、人類にとって宿命のようなものなのだ。

(火の鳥第2部未来編:手塚治虫著、COM名作コミックス)