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冬のさくら (茨城:新川和江)

男と女が われ鍋にとじ蓋式に結ばれて 
次の日から はや糠味噌(ぬかみそ)くさく なっていくのはいやなのです
あなたがしゅろうの鐘であるなら わたしはそのひびきでありたい
あなたがうたの一節(ひとふし)であるなら 私はその対句でありたい
あなたが一個のレモンであるなら わたしは鏡の中のレモン
そのようにあなたと静かに向かい合いたい
魂の世界では 私もあなたも永遠のわらべで
そうしたおままごともゆるされてあるでしょう
湿ったふとんのにおいのする
まぶたのように重たくひさしのたれさがる
一つ屋根の下にすめないからといって 
何を悲しむ必要がありましょう
ごらんなさい 内裏雛(だいりびな)のように
私達だけがならんで座ったゴザの上
そこだけ明るく暮れなずんで
絶え間なくさくらの花びらがちりかかる
(わたしを束ねないで:新川和江詩集、童話屋、1997年)